人に共感する能力は、社会的ストレスで制限される
人の気持ちに共感できることって、心のあたたかい人間でいるために重要なことですよね。
人の痛みがわからない人に、倫理や善悪は語れないと思います。
でも、電車の中や街中で、急に冷たい行動をとってしまうことってありませんか?
あるときふと、周りで困っている人に気づいたけど、なぜかなんとも思わない。そんな自分に自己嫌悪。
こんな経験は、誰でもあるはずです。
それもそのはず。共感能力って、環境や周囲の状態に応じて、常に変化しているんです。
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人に共感する能力は、社会的ストレスで制限される
さて、そこで今回の記事です。
The secret of empathy | Faculty of Medicine - McGill University
カナダで最も歴史ある大学であるMcGill大学のCynthia Lee、Prof. Jeff Mogilらの研究によると、
人に共感する(Empathyを持つ)能力は、社会的なストレスによって制限されることがわかったとのこと。
記事の表現を引用すれば、
他者の感情を共有し、表現する能力は、周囲に他者がいることによるストレスで制限される
例えば、電車のように見知らぬ人が周りにいると、それがストレスになって人にEmpathyを持てなくなるんですね。
※Sympathyと区別するために、敢えてEmpathyと書かせていただきます。
では、どうしたら人に共感できる、あたたかい人間に戻れるのでしょうか?
この実験では、社会的ストレスを取り除く方法も示されています!
社会的ストレスを取り除くには…
Empathyを得られるようになるには、15分間一緒にRock Band®(ゲーム)をプレイすればよい。
Rock Band®とは、簡単に言えばゲームの中でバンド演奏ができるというもの。
わかりやすい説明は難しいので、以下のサイトを参照してください。
The Beatles: Rock Band Game PV - YouTube
↑映像なので音が出ます。
要は、15分ほど何か一緒に作業するだけで、「見知らぬ他者」は「共感できる友達」になるわけですね。
人間とマウス
実は、こうした傾向はマウスでも同様、とのこと。
人間もマウスも、知らない人がいるだけで、Empathyを持てなくなるんですね。
まぁおなじ哺乳類ですからね。
もしかしたら、犬や猫、牛や豚、イルカやクジラなど、他の哺乳類も似たような仕組みになっているかもしれませんね。
実験の内容
さて、ここからは具体的な実験の内容を簡単に紹介したいと思います。
ただ結果だけを鵜呑みにするのは良くありませんからね。
記事の結論はものすごく飛躍してるかもしれません。
批判的に実験を見ていきましょう!
この研究では、まず、
- 一人
- 友人と一緒
- 他人と一緒
- 抗ストレス薬を服用した上で二人の他人に挟まれる
- 15分一緒にRockBand(r)をプレイした二人の他人に挟まれる
といった状況で、それぞれ被験者の学生は腕を冷たい氷水に浸し、痛みを評価する実験を行いました。
結果としてはまず、
- この実験で被験者が感じた痛みは、一人の場合も他人に挟まれた場合も変わらなかった。
- 一方、友人と一緒の時は痛みが増した。
ことがわかりました。
後者の結果に関しては、共感が働いていると考えられますね。
補足として、過去のMogilの実験では、見知らぬ二匹のマウスではEmpathyが起きないことが示されています。
一方、仲の良い場合(同じケージのマウスなど)は、単体で痛みを与える実験をした場合より、同じ刺激に対しても強い痛みを感じるそうです。
人間と同じですね。
さて、次に、抗ストレス薬を服用する場合の実験ですが、ここで抗ストレス薬と呼ばれているものは、メチラポンという、fight-or-flight response(闘争・逃走反応)というストレス反応を妨げる薬です。
気になるこの結果は、人間でもマウスでも他人にもEmpathyを示すようになったようです。
ここでは、
ストレス(というかストレス反応)を抑制すると、Empathyを示せるようになる
ということがわかりました。これが、人にEmpathyを持つ能力は、社会的ストレスで制限される、という主張の根拠になっているわけですね。
もちろん、社会的ストレスによってのみ、ということは言っていませんのでご注意を。
最後に、RockBand®を他人と一緒にプレイする実験です。
この結果は、すでにお伝えしたとおり。
一緒にプレイすることで、一緒にプレイした他人に対してEmpathyを示すようになりました。
もちろん、一人でプレイしても他人に対するEmpathyには変化がなかったので、Rock Band(r)をやってれば心あたたかい人間になれる、というわけではありません。笑
ここで重要なことは、
一緒にテレビゲームをする、という表層的な経験を共有することだけで、人々は’他人ゾーン‘から’友人ゾーン‘へ移ることができ、有意義なレベルでEmpathyをつくりだすことができる。
ということです。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
実は私の専門は善悪の判断とかそのあたりなので、マウスと人間に共通した共感能力のしくみ、というのは非常に興味深いです。
また、みなさんにとっても、自分がこころのあたたかい人間でいるために、こころを許せる友人を作り、行動を共にすることや、他人と仲良くしていくことなど、意識していくことの重要性に再度気づくことができるいい機会だったのではないでしょうか。
現代では、さまざまなコミュニケーション手段ができた一方で、周囲に”見知らぬ人”が常にいるような環境が非常に多いです。
街中や電車はもちろん、会社や家の近くでも、そういった状況ばかりではないでしょうか。
むしろ、知らない人がいない状況の方が珍しい。
人の気持ちを理解できるこころを持ち続けたいなら、もっと自分の環境に目を向け、少しでも改善の努力をしたほうが良さそうです。